耳下腺腫瘍(じかせんしゅよう)の記録

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コロナウィルスが拡大を続ける2020年、耳下腺腫瘍の診察、検査。年が明けて、緊急事態宣言下の東京で手術。その記録を体験談として記録しておこうと思う。

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右耳の前、頬骨の下あたりになにかある

2019/6/18 脂肪腫らしきもの

いつも西新宿の整体に通っている。その日は、仕事の疲れがたまって体が悲鳴を上げていたので、どうしても施術を受けたかったが、予約がいっぱいだった。それで、仕方なく西新宿にある別のカイロプラクティックの予約をした。この選択が後に耳下腺腫瘍を発見するきっかけになるとは、このとき思いもしなかった。

初めてのカイロプラクティックで、いつものように首と肩のコリを重点的に施術してもらった。ついでに、右の顎関節がちょっと出っ張っているのが気になっていたので、左右のバランスを整えてもらえないかと相談をした。顎関節症は長年の悩みで、口を開くとバキッ!と音がする。ここ数年、右側の顎関節、ちょうど右耳の下あたりがボコッと出ているのは、その影響だと思っていた。

いつも通っている整体の先生は、顎関節の歪みを取り除こうと、いつも力尽くでグイグイと押し込むように施術してくれていた。ところが、初めて訪れた整体の先生は、顎関節を少し触って「これは骨じゃないです、恐らく脂肪腫か粉瘤(ふんりゅう)です。一度、詳しく調べてもらった方がいいと思います」と言う。皮膚科がいいでしょうとのことだった。

2019/6/25 皮膚科を診察する

帰宅してすぐ、初めて聞いた「脂肪腫」「粉瘤」について調べた。

粉瘤(ふんりゅう)…..表皮に皮脂や角質が溜まり皮膚が袋状にふくらむ疾患

脂肪腫.….皮下に発生する最も多く見られる良性の腫瘍

どちらも日帰りでサクッと手術できる。以前、かかったことのある新宿のクリニックで予約を取り、診察後に手術する気満々で受診すると、先生が「粉瘤でも脂肪腫でもありません、これは腫瘍です。大きな病院で詳しく検査してもらっってください。紹介状を書きます。希望の病院はありますか」と、急に話が大きくなっていった。

1年以上に渡って、右の耳のあたりにできた小さな腫瘍を、整体でぐいぐいと強く押し込むような施術をしてもらっていたのは一体なんだったのだろう。見る人が見れば、すぐに「腫瘍」とわかるものだったようだが、普通にはわからない。これまで施術してくれた整体の先生を恨んだりはしない。偶然訪れたカイロプラクティックの先生が気づいてくれたおかげで、それが腫瘍だとわかって感謝している。悪性でないことを祈りつつ、新宿の某大学病院宛てに紹介状を書いてもらった。

2016年に東京杉並から茨城に移住した。阿佐ヶ谷に8年、その前は西荻窪に6年くらい、その前にも西荻窪の駅前、国分寺。中央線沿線が落ちつく。移住しても、変わらず新宿が好きだ。

耳下腺腫瘍と判明して手術を決断する

2019/7/2 大学病院で耳下腺腫瘍が判明

紹介状片手に新宿の病院を受診した。地下鉄駅直結の大病院は、マスクをした人で混雑していた。この時期、病院に足を運ぶのは気が進まないが、仕方がない。悪性の可能性があるので、早い方がいい。

受診してすぐ耳下腺腫瘍だとわかった。女性の先生は、患部を触りながら恐らく良性の腫瘍だと思うけど、詳しく検査をしましょうと、MRIと超音波の検査を勧めた。今すぐに!と焦る私に、先生は「MRIの予約が取れるのは、2週間後です」と告げた。悪性だったらどうしようと、不安な2週間が過ぎていった。

2019/7/17 MRIと超音波検査

MRIはなかなかの不快度だった。最初の一瞬だけ宇宙感!未来感!と不安よりも好奇心が勝っていたが、あの狭いドームにどのくらい密閉されているのかの説明がなかったので、1分、3分、10分と過ぎていくのが、次第に苦痛に変わっていった。このドームの中にいる私のことを忘れてしまったんじゃないか!と考え出したら、変な汗が出てきた。3分くらいで終わるかと思っていたら、実際には20〜30分だったようだ。それを先に言っておいて欲しかった!

下着は着けたままで構わないとのことだったので、キャミソールを着ていた。ところが、ドームの中でキャミソールに金具が付いていることを、ふと思い出してしまい、皮膚が溶けたりする?どうなの?と軽くパニックに陥ったりもした。(金具ではなくプラスチックだったし、皮膚が溶けたりしない)

重々しいヘッドフォンで完全に耳を塞がれていたけど、しょうもないリズムを爆音で延々聞かされるのは経験したことのない苦痛だった。病院によってはドームの中に映像が流れるとか、ヘッドフォンで好きな音楽を聞くことができるとか、そんな配慮のある病院があることをあとから知った。

とにかく、自分の体の断面図を撮影するという経験は苦痛ではあったけど、おもしろい体験だった。超音波の検査は、ぬるぬるしたものを患部に塗ってぐりぐりするだけで終わった。

2019/7/29 検査結果と注射4本

先日のMRIと超音波検査の結果は良性だった。診察内容はこうだ。

  • 将来的に悪性(ガン)になる可能性はゼロではない。
  • 10代、20代なら早めの摘出手術を勧める。
  • 良性なので、今すぐ急いで手術する必要はない。
  • 放置してもいいけど、手術をした方がいいだろう。
  • 手術をするなら、時期は自分で決めてよし。
  • 手術する病院は、どこがいいか。

この時点で摘出手術は、仕事が少し落ちつく1月にしようと決めていた。ひっかかったのは、「手術する病院は、どこがいいですか」という先生からの問いだった。好きな病院、どこでも決めてくださいというのだ。思わず「え?先生が手術してくれないんですか?」と口から出てしまった。

「ぼくが手術してもいいですけど」

と先生は言った。この病院に任せてしまっていいものか、急に不安でいっぱいになってしまった。不安というより、不信感を抱いてしまった。

「先生は耳下腺腫瘍の手術をしたことはありますか?」
「もしかして、手術やりたくないですか?」

とまで聞いてしまった。先生は「手術まで時間はあるから、どの病院で手術するかじっくり考えておいてください」と言う。この診察室でのやりとりは、一体なんだったんだろうと、あとから何度も思い返す。「先生に手術して欲しいので、ここで手術します。お願いします。」と言えば済む話なんだけど、私には先生の態度そのものが「よその病院に行ってください」に見えてしまった。

この日はさらに、患部に注射を4本打った。腫瘍から細胞を取って、検査する。細い針で2本、太い針で2本。刺したあとで、ガツン!という頭蓋骨に響くほどの強い衝撃があった。検査にあたって、同意書にサインを求められた。サインするのは、この病院で二度目だ。

診察室で、自分の断面図を10秒くらいしか見れないのは惜しいので「そのお写真いただけませんか」とお願いしたら、1枚プリントしてくれた(ちゃんとプリント料金が加算される)。私の断面図、何度も見てしまう。右耳のあたりに、白い丸いものがしっかり映っている。

2019/8/12 検査結果と入院、手術の説明

細胞診、組織診も良性だった。良性腫瘍にもいろいろあって、私のは多形腺腫というものらしい。摘出手術した腫瘍を検査するまでは、実際のことはわからない。

手術や副作用の説明を受けながらも、もう一つの病院で診てもらおうかと考えていた。セカンドオピニオンだ。

不信感が募ってセカンドオピニンを受ける

2019/9/18 セカンドオピニオン

あらかじめ電話でこれまでの検査結果を受け取りたい旨を伝えておいたので、封筒やCD-ROMの受け取りはスムーズだった。その足で、2つ目の病院へ。この病院の受診を決めた理由は2つだけ。

  • 耳下腺腫瘍の手術実績が多い。
  • 「耳下腺腫瘍」で検索したら、この病院を選んでよかったという体験記があったこと。

顔の手術なので、経験の多い病院の方が安心できる。できれば経験豊富な先生に執刀してもらいたい。なぜならば、手術中に少しでも神経を傷付けてしまうと、右半分、顔面麻痺が残ってしまう。これだけは絶対に避けたい。自分の判断で避けられるのなら、病院選びは慎重にやりたい。

診察室でこれまでの話をすると先生がすぐ「うちで手術しましょう!」と言ってくださった。それだけで、急にラクになった。触診の後、改めて細胞を採取するための注射をした。前の病院では頭蓋骨に響くくらいの衝撃があったけど、今回はあっさりと終わった。この差は一体なんなんだろう。それから、血液を3本取っておしまい。

2019/10/6 診察と入院の段取り

診察室に入ると、初診時とは違う先生がいた。マスクをしていて表情はわからないが、こちらを見もしない。すべての言葉が業務的で冷たい。手術の後遺症については既に聞いて知っていたけれど、先生は改めて言った。

「顔面麻痺が残ることがあります。わかりやすく有名人で言うと、北野武さんみたいになります」

患者の私は「はい、わかりました」と答えればいいのか。躊躇いもなく、こちらを見るでもない先生を前に、私は無言で固まってしまった。女性に対して、その言い方はないだろうと思った。しばらく沈黙の時間があって、先生は返事をしない私に苛立っている様子で、やっとこちらをジロッと見た。

「手術の日はいつがいいですか」
「その日はダメです。月曜じゃないと手術はできません」
「1月ならこの日から選んでください」
「手術の2日前から入院です。手術前日はダメです、2日前です」
「退院は手術から6日後です」
「もっと早く?それは無理です」

スケジュール帳を見ながら話す私に、「ダメ」「無理」を連発するので、言うがままにスケジュールが決まっていった。「仕事が」「猫シッターさんの都合が」という私の言葉は一切無視だった。

多忙な先生の都合に合わせないといけないのは理解しつつも、人を見てくれていない態度に心底悲しくなって、無言で診察室を出た。そして、この病院で本当にいいのだろうか、最初に受診した新宿の病院に戻った方がいいんじゃないかと大いに悩むことになった。先生にとっては、執刀する患者の仕事や生活、性別も一切関係がない。それはわかっている。ただ、あまりの冷たさに、精神的に追い詰められてしまった。

この日からずっと「北野武さんみたいになります」の言葉が、頭の中をぐるぐるしている。

2019/12/1 入院前検査が始まる

この病院でいいのだろうかと悩みながらも、手術に向けて着々と検査が進んで行く。この日はまず、呼吸器の検査だった。コロナの影響で、担当の看護師さんは防護マスクをかぶっていて、コオオオオ!プシュー!という呼吸音が不気味に部屋に響いていた。肺活量が少なすぎて、時間がかかった。

1階の採血室へ行くと、「採血は4階の処置室です」
4階の処置室へ行くと、「採血は1階です。1階で採血してきてください」
1階の採血室「ごめんなさいね、あなたは採血中に具合悪くなるかもしれないから、やっぱり4階の処置室に行ってください」
4階の処置室「はい採血しますね」

という具合で、混雑した病院内を行ったり着たり、疲れてしまった。そして、患者さんで溢れる大病院こそがコロナ感染の危険が潜んでいそうで恐い。

採血するときに、看護師さんに「あの先生ってベテランですか?」聞くと、「はい、ベテランです。えらい先生です」と。そうか、ベテランなら腕は確かだろう。不信感はあるものの、お任せしても大丈夫かもしれない。とはいえ、まだ病院を変更することはできるだろうか。悩む。

さらに尿検査、心電図、血液検査と続いた。

2019/12/15 術前診察

人工呼吸器を付ける関係で歯科衛生士さんの検診を受けたりした。以前、全身麻酔は経験しているので、全身麻酔についてのDVD視聴は省略できた。麻酔科の先生との面談のあと、お薬手帳持参で薬剤師さんの診察があった。

さらに、血圧を測定。普段から低血圧に悩んでいるが、この日は特に低くて、下の血圧が39だった。睡眠不足、早起き、朝食を食べていないことも重なっていたとはいえ、看護師さんも測定器の調子が悪いと思ったらしく、手動で測定してくれた。結果はやはり同じで「車椅子持ってきましょうか、歩けますか」と、急に病人扱いだった。大丈夫。

「北野武さんみたいになります」と言われて以来の診察だった。気が重かった。診察室の先生は前回同様、マスクをしていたけど、表情が明るいのがわかった。会話をしていても、前回の冷たさはまったくなかった。不信感を抱き、あれほど悩んだのは一体なんだったのだというほど、言葉のキャッチボールがちゃんと成立した。

コロナが拡大していく中で、病床が足りず、自宅待機せざるを得ない患者さんが増えている。そして、治療を受けられずに自宅で亡くなる方のニュースも増えてきている。政府からはコロナ患者用の病床を増やす要請が出ている。一般病棟を縮小することになれば、私の手術も延期になる可能性がある。念のため「手術が延期になる可能性はありますか?」と聞いた。

「非常事態宣言が出ない限りは、スケジュール通りです」

2020/1/12 CT検査と唾液採取によるPCR検査

1/7に東京都、埼玉県、千葉県に緊急事態宣言が発出されて、いよいよ手術が危うくなってきた。もし延期になり、その間に良性腫瘍がガン化してしまったら。コロナウィルスが今後半年、1年と拡大を続けたら。不安な日々が続く。マスクを二重にして東京駅に降り立った。明らかに人が激減していて異様な雰囲気だった。

コロナ陽性者は絶対に入院させません!ということで、入院が目前に迫ったこの日、PCR検査だった。「本当にスケジュール通りやるんですか?」と病院に電話したかったが、何百人、何千人の患者さんを相手にしている大病院だ。そんな電話に一件一件対応していたら切りがない。予定通り、病院に向かうことにした。

唾液を採取する小さな容器を手渡され、パーテーションで区切られた会議机で唾液を採取する。病院によっては梅干しやレモンの写真が飾られているといった話しも聞いていたけど、この病院には特に用意されていなかった。それで、スマホで「梅干し」と検索して、ひたすら梅干しの写真を眺めながら唾液が出るのを待った。

CT検査は予約していた時間にサクッと終わった。それから、入院前に記入した書類に沿って、看護師さんとの面談。

病室は個室を希望している。去年、働いて働いて貯めたお金は、個室代に充てる。個室よりも上に「特別室」というVIPルームがあって、その部屋だけはWIFIが導入されているとパンフレットで知っていた。ところが、最近すべての病室でWIFIが使えるようになっているようだった。それ大事!映画をコツコツとダウンロードしていたけど、その必要もなさそうだ。

2020年は一度も髪を切らなかった。おかっぱ頭がトレードマークだったが、背中まで髪が伸びて、傷口を隠すには十分な長さになった。そんな私を見て、看護師さんは「髪を結ぶゴムを2本持ってきてくださいね」と言った。

コロナ禍での入院は、何かと大変だ。

  • 面会禁止。
  • 院内のコンビニは無症状の陽性者がいるかもしれないので、行けない。
  • 自販機は音が響くので、院内には設置なし。
  • 別フロアにはコロナ患者さんがいるので、フロアから出ない。

ミネラルウォーターを多めに病室に持参するようにと言われて、用意した小さなカバンの半分はペットボトルで埋まった。こんな重い荷物を運ぶくらいなら、病院近くで調達した方がいいかもしれないとカバンを見て悩む。

もし、顔面麻痺が残るのなら、今のうちに笑っておこうかと思うものの、笑えるネタがなにもない。

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