耳下腺腫瘍 入院3日目(手術当日)

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昨日に引き続き、寝るときは、喉が乾燥するのでエアコンを低めに設定した。さらに、薄い布団の上にコートを重ね、足には靴下とレッグウォーマー、ヒートテックに腹巻き、ボアのカーディガンを着込んで寝た。それでもやはり体温が逃げたようで、いつものあたたかな朝ではなかった。くしゃみを連発している。家のあたたかい布団が恋しい。

手術当日を迎えた。8時の朝食はなし。水を飲むのは9時まで。10時から点滴で体に栄養を取り込む。髪は2つに結ぶ。おさげなんていつぶりだろう。

7時過ぎ、まだ寝ているところに看護師さんがやってきて「もうマーキングしましたか?手術するところに印付いてます?」と聞いてきた。それは先生と確認すればいいんじゃないかしら。

8時過ぎ、また別の看護師さんがやってきて「マーキングってもう終わってますか?」。なぜ情報共有できていないんだ。やってないってば。

8:30過ぎ、また別の看護師さんが今度は医師と一緒にやってきて、入室10秒でマーキングして出ていった。他人にペンで顔に何かを書かれる、というのは妙な体験だ。

起床して既にお腹が減っている。ベッドの上で安静にして待つ。手術は2番目。最初の患者さんも耳下腺腫瘍の手術だと聞いた。私は恐らくお昼前くらいになるとのことだった。素肌に手術着、紙パンツは両サイドが紐で結ぶ特殊なものだった。足は肺血栓塞栓症の予防で、窮屈な靴下を膝下まで履いた。これまで、尿道にカテーテルを通すという説明を受けていたが、2時間の手術ならその必要もないでしょうと話が変わっていた。管を通さなくていいなら、少し気がラクだ。


10時過ぎ、点滴を入れる。アイシャドウが際だった看護師さんが右手の甲に針を刺す。失敗。二度目も失敗。「ちゃんと血管に刺せる自信がないんで、別の看護師呼んできます!」と、部屋を出て行った。

次の看護師さんも針を刺すのに難航している。10分以上指先で血管を探り、「難しいですね!」と笑う。いやいや全然笑えないんですけど!三度目も激痛が走る。失敗。30分かけてうまくいかず「もう終わりますね」と出ていってしまった。

結局、全身麻酔後に点滴を入れた方が痛みはないだろうということになった。今日は1日絶食なので、栄養を体に入れるために必要な点滴らしいのだが、手術よりも点滴の痛みに耐える1日になるのだろうか。これは厳しい。

病室にまた看護師さんがやってきて、点滴の針刺しダメ押しの4回目。失敗。「ここは2回刺して血管つぶれてるからなあ」とか、ぶつぶつ言っている。勘弁して。5回目、激痛に耐えながらようやく刺さった模様。なのに、「痛いですか?痛かったら抜きます!一回針抜きましょう」と言うので、つい「そのままにしてください!」と口から出て、ようやく針を固定した。冗談じゃないわ。

やっと呼ばれた。点滴をガラガラと引きずって業務用エレベーターで手術室へ向かう。若い看護師さんは始終無言で気まずい。こちらから「お腹減りました!」と場を和ませたりするも「そうですよね」で会話が終わる。緊張感が増す中、別の看護師さんに引き継ぎをして、私を見ずにその場を去っていく。なんて薄情な!声もかけず、挨拶もなしなのか…と悲しみに暮れて看護師さんの背中を見ていた。すると、ふと思い出したようにチラリと振り返り、表情そのままに軽い会釈をして消えて行った。私を手術室に置きにきたという感じだった。私はモノじゃない。

手術室はこれまでにないほど緊迫感があって、7人くらいの人たちがそれぞれの仕事をテキパキとこなしていた。点滴に麻酔が入る。腕からじわっと毒が回っていく感じがする。そしてものの数秒で視界は完全に消えた。

慌ただしい声がする。どうやら手術は終わったらしい。右の耳付近に管が刺さっている。目を開く気力もない。ただ、かすかに音だけを聞いていた。それにしても、全身が汗でびしょ濡れだ。誰か汗を拭いてください!と思うものの、声にはならない。「すごい汗!」「さっき拭きました」の会話が聞こえる。顔をボタボタと汗が滴り落ちている。さっき拭いてもまた拭いてくださいよ….。悲しく横たわる。「お部屋に戻りますよ」とかすかに声がする。

2時間ほどの手術を終え、酸素マスクを外し、横になったまま部屋に戻ってきた。体を横にスライドさせて、自分のベッドに移りたいものの、看護師さんの声を聞くのがやっとで体が動かない。まだ、目を開ける気力もない。全身汗だくのまま布団が掛けられ、睡魔に身を任せた。外はまだ明るかった。手にナースコールを握りしめて寝る。

汗もひどいが吐き気も止まらない。左手は点滴、首に管、顔も腫れているし、姿勢を変えることも難しい。手の届くところに、吐いてもいいように容器が置かれているが、手を伸ばすのがやっとだった。昨晩からの絶食で、吐いても大して何も出てこない。それでも何度となく吐く。初めてナースコールを押すと、「あ、吐いたんですね」とトイレからペーパータオルの束を持ってきてくれた。力を振り絞って口を拭くのがやっとだった(できれば、手伝って欲しかった)。一人になった部屋で思う。私が家から持参した箱ティッシュを手の届くところに置いてくれたりもしたけど、これ持参しなかったらどうなっていたのだろう。トイレットペーパーを持ってきてくれたのかしら。今日だけで何度心に冷たい風が吹いただろう。

猛烈な吐き気でテレビを見ることもできず、ちょっとスマホを手に取ってはみたものの、重く感じてすぐ手放した。目を閉じて、吐き気がすぎるのを待つ。

夕方頃、先生が部屋に来たのをかすかに覚えている。口開けますか?口をニーッとしてみてください、大丈夫そうですね、と部屋を出て行った。大丈夫そうの言葉に安堵する。手元に手鏡なとないので、スマホのカメラをセルフ撮影にしてみる。なるほど、首に管が刺さっている。切ったところは思いの外耳の近くで、髪に隠れている分あまり目立たない。口角を上げてみる。顔の右側も反応している。よかった。ちゃんと笑えている。

夜になってテレビをぼんやり見る。ベッドはフラットにしてはいけないとのことで、角度を保っている。点滴は明日の朝6時頃には取れるという。右耳の下、首に刺さった管からは血のようなものが流れて、ビニールのポシェットに入ったパックに液体が溜まっている。これは数日付けておかないといけないらしく、気が重い。聞けば、管の差し込み口が皮膚に縫い付けてあるらしい。引っ掛けないようにしよう。

19時頃、SECOMから電話があった。どうやら猫シッターさんが不審者の侵入だと思われているようで、警備が家に向かっているという。SECOMの解除方法がうまくいかなかったようだ。室内カメラにはお水を交換する猫シッターさんの姿が映っている。カメラの音声マイクを使って、SECOMの解除をしてもらった。猫たち、猫シッターさんを怖がらずにいてよかった。

素肌に手術着だけでは肌寒くて、室温を調整してもらった。相変わらず薄っぺらい布団は頼りなく、上着を首元にかけてまた目を閉じた。

0時を過ぎても吐き気は止まらない。看護師さんが「そろそろ歩いてみますか?」と言うので、体を起こして自力でトイレに行ってみた。当初、尿道に管を通すとか、ベッドの上で排泄を手伝ってもらうとか、いろんな説明があったけど、誰の手も借りず自力でトイレに行けたのはなによりだ。ようやく手術用の紙パンツから下着に着替えた。看護師さんが手伝ってくれて、パジャマに着替えて一息ついた。前開きの肌着とパジャマが役に立っていて、ボタンとボタンの間から管を通している。

本当は着替える前に体を拭きたかったが、着替えの手伝いはしても、体を拭くのは手伝ってはくれないようだし、明日自分で拭けことにした。深夜に着替えができたことだけでも、少し気がラクになった。

本当はカーテンを閉めたいとか、トランクの上下反対に置かれてしまったのをひっくり返して欲しいとか、お願いしたいことはいろいろあったけど、声をかける間もなく「じゃあまた点滴見に来ます」と部屋を出て行ってしまうので、言えずにいる。

絶食が続いているので、テレビに映るお好み焼きとかオムライスがつらい。食べたいけど吐き気の方が勝ってしまう。水もまだ飲んではいけないので、深夜にうがいをして口の中を潤す。スマホでツイッターを眺めてみたものの、スクロールで気持ち悪くなるので1分と見ていられなかった。

(誤解のないように書いておくと、これは個人の日記なので、病院や医師、看護師を非難するものではありません。今思ったことを素直に文章にしておきたいという意図だけで書いています。)

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