1/16 、入院当日。いつも鹿島アントラーズの観戦チケットを手配してあげている町のおじいちゃんが朝からバスターミナルまで送ってくれた。普段バスターミナルまでは車で行くのだが、入院中ずっと車を置きっぱなしにしておくこともできず、おじいちゃんが快くお迎えを引き受けてくれた。
猫たちは猫シッターさんにお任せして家を出た。猫たち、お留守番がんばって。
バスで東京駅に降り立って、荷物も多いからとタクシーに乗るつもりが、いつものように中央線で移動した。入院の個室代が高額なので節約だ。10:30に入院受付に行く予定が、1時間も早く着いてしまったものの、病室は既に用意されていた。
人生最高級の宿泊
受付で書類を手渡し、サインをし、検温し、1泊36,000円という個室に入った。この病院の個室最安は33,000円だ。ところが最安のお部屋が満床ということで、一つランク上(設備はほとんど同じ)になってしまった。私がいつも旅をするときは、1泊5000円程度の安宿ばかり泊まり歩いている。それが!1泊36,000円って、1週間分の宿泊費ではないか!高い。高すぎる。高すぎるが、4人部屋で9時消灯は無理だ。仕事もある。
高級な個室はベッドとトイレがあるだけで、正直これならビジネスホテルの方が、電気ポットも加湿器も清潔なタオルも用意されていてずっといいと思ってしまった。とにかく、高いお金を払うのだから、できるだけ元を取りたい。早速、ベッドの上の移動式テーブルを中心に、仕事ができる環境を整えた。
医師からの説明
病室に入ってすぐ耳鼻科の先生から詳しい手術の説明があった。これまで診察してくれたM先生ではなく、初めて会うO先生だった。MRIの映像を見ながらのわかりやすい説明で、これまでM先生から聞いていたよりずっと丁寧で、なにより気遣いが感じられ、安心感を得られる説明だった。
私の耳下腺腫瘍は右耳の下、ちょっと前あたりにある。だから切開手術は少し耳の前の方、顔に傷が目立ちますと、M先生の心ない言葉を受けて、ショックを受けていたが、O先生は「目立たないようにしますから大丈夫ですよ、なるべく耳に近いところ、耳たぶにかくれるように、皺でわからないように切りますので、安心してください。そんなに顔に近い前の方は切りません。」と笑った。
病気がわかってからの半年、私はずっとその言葉を聞きたかったのだ!
後遺症の顔面麻痺についても、これまで不安を煽るような話ばかりだったのが、O先生の話はそれを払拭するかのような説明で、急に気持ちが楽になった。顔面麻痺が残ったら顔が引きつって笑えなくなるものだと思っていたけど、それもなさそうだ。症状が出ても、半年、1年で徐々に小さくなっていくようで、そこまでの心配はしなくて大丈夫みたいだ。
ああ、最初からO先生の診察だったらよかった!
できればO先生に執刀してもらいたいと思ったが、私の手術日は外来担当なのだそう。残念だ。恐らく、診察のときに「顔面麻痺が残ることがあります。わかりやすく有名人で言うと、北野武さんみたいになります」と無の表情で語ったあのM先生が執刀することになる。それを聞いてため息をつく私に「M先生でしたら、安心していただいて大丈夫ですよ」と明るく言ってくれたのが救いだった。
幻のハンバーガーランチ
今日から病院食で、12時にはお昼ご飯が出る。近くにファイヤーハウスというハンバーガーの有名店があるので、お昼はちょっとテイクアウトしようかと思っていたけど、もう病院から出てはいけないらしい。残念だ。
病院食はいつから用意されるのかと尋ねると、お昼から出ますという。で、最初に出てきたお昼ごはんがこちら。先日ツイッターで見たコロナのホテル療養患者さんのお弁当の方がずっといい気がするが、個室料金高いし残さず食べる。それにしても、なにか感情の糸を切らないといろんなものがこみ上げてきてしまう献立だ。
面会禁止とペットボトル
入院にあたって、「院内のコンビニは利用できません」と案内されていた。無症状のコロナ患者さんが紛れている可能性があるからだ。それで、入院時はペットボトルの水を入院日数分持ち込むようにと聞いて、小さなトランクでは荷物が収まりきらず、大きなトランクに移し替えたりで、思いのほか大荷物になってしまったのだ。
ところが、担当の看護師さんから聞いた言葉に耳を疑った。
「コンビニは同じ病棟内だし、必要なものを買いに行く程度なら全然問題ありません」
おーい!言ってることが違うじゃないか!コンビニはコロナ陽性者がいるかもしれないから、利用できませんってハッキリ言ったじゃないか!ミネラルウォーター重かったのに!
看護師さんによって説明が違うから混乱する。さっそく地下のコンビニへ行くと、外部のお客さんも利用するコンビニなので、ここであっさり面会できることに気づいてしまった。フードコートも広くて、丸テーブルがたくさんある。院内の入院患者さん、お医者さん、外部の人がごちゃ混ぜでくつろいでいる。面会禁止とは一体。
ゆるやかに慌ただしく過ぎていく
手術は明後日なので、今日はやることないなと思っていたけど、次々と先生や看護師さんが部屋にやってきて、書類を書いたり、採血したり、鼻に綿棒を刺して細菌検査をしたり、ゆるやかに時間が過ぎていく。天気がいいのでエアコンを切って、窓を少しだけ開けている。青空だ。
田舎の生活は、静寂の中に暴走族の爆音が響いて、移住して5年経っても慣れずにいる。テレビの音もかき消すほどの暴走音なのだ。暴走族なんて一昔前の文化だと思うなかれ。奴らは現存している。病室の窓を開けていると、街の喧騒と電車の音がしきりに聞こえる。静寂とは無縁だ。東京とはこんなに騒がしい町だったか。東京に20年以上暮らしていたので、電車の音が懐かしい。
窓を開けると、向かい側に別の病院が見える。看護師さんが「この病棟にはコロナの患者さんはいません、別の病棟です。」「それから、電車に轢かれてぐちゃぐちゃになったりしたら、うちじゃなくて向こうの病院にいきます。うちじゃないです」といらない情報を言う。夜になっても、ぐちゃぐちゃという言葉が頭を離れなくなってしまった。
私の病室の反対側は、都会的な眺め。
昼間のシャワー
高額な個室代を支払っても、シャワーは共同で毎日要予約。初日は15時から30分の予約を取ってくれていて、そんな昼間から!?と思ったが、看護師さんがたくさんいる日中に済ませてもらいたいそう。夜は何かあっても看護師さんが少なく対応できないので、シャワー室は施錠されている。看護師さんが足拭きマットを持ってきてくれて、時間ぴったりにシャワーを浴びる。当然アメニティーもタオルも一切ない。
つい「個室代、高額なのに」という思いが頭をよぎってしまう。そしてこのシャワー室というのが、鏡もなくとても狭くて不便だ。ビジネスホテルの方がよっぽど使い勝手がいい。
半袖で過ごせるあたたかさ
病院で体調を崩さないようにとレッグウォーマーに腹巻き、ヒートテック、ボアのカーディガンなどたくさん用意してきた。ところが、病室はエアコンを切っても暑いくらいで、看護師さんたちは皆半袖で働いている。こんなに暑いのなら、ヒートテックじゃなくてエアリズムだった!
こういうことは、病室に入ってみないとわからない。ただ、この防寒具が就寝時に役に立つことになる。
貸出可能なもの
ドライヤーも貸し出し可能だったようで、それも知っていれば荷物は少し軽くなったはず。お湯も看護師さんに言えば、施錠したパントリーからもらえるようで「カップラーメンも食べられます!」と笑顔で言うんだけど、そういうことも先に知っておきたかった。
とはいえ、旅行用の小さな電気ポットを持参したので、常に普段通り紅茶を入れられる。サーモスのドリンクボトルは、シベリア鉄道でユーラシア大陸横断したときもずっと手元にあった。マグカップ代わりになるので、旅行ではいつも重宝している。今回の入院でも毎日活躍している。
夜が更ける
夜ごはんは18時。冷めた食事。味が薄い。肉が固い。「おいしい」という感情は一切湧かない。つらい。高額な料金払っててこのお食事はつらい!が、心を無にして食べる。さっき院内のコンビニにおいしそうな台湾まぜそばとか肉まんとか売っていたことを思い出してしまう。
食後にミルクティーをいれ、甘栗を食べた。20:30には「消灯のお時間ですが、個室はこのままで大丈夫です」と、ドアが開く。病室なのでドアに内側から鍵を掛けることはできず、常に緊張感がある。とはいえ、4人部屋でイヤホンをして過ごすよりはずっといい。
WIFIが使えると聞いていたが、光回線時代に2Mbpmという遅さだった。スマホの電話回線をテザリングしないと仕事にはならない。いつもと変わらず病室で仕事をする。
これまでも旅をしながら仕事をしてきて、環境が変わるのは慣れている。ワールドカップでブラジル、ロシアにいるときも、こうして入院していても、仕事に没頭してしまえば関係ない。究極のテレワークだ。今日もよく働いた。
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