耳下腺腫瘍 入院4日目(手術翌日)

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猛烈な吐き気で身動きが取れないまま夜が更けていった。吐き気止めや痛み止めもあるようだが、点滴も打っているし、薬は飲まずに少し眠っては起き、眠っては起き、なんとか朝を迎えた。看護師さんは夜通し何度も点滴の具合を見にきてくれた。枕元の電気を消してくださいとか、カーテンを閉めてくださいとか、エアコンの温度を上げてくださいとか、いろいろ言いたいことがあったものの、朝まで何も言えなかった。

6時過ぎ、ようやく点滴が外れた。なかなか針が刺さらず、5回目でようやく手の甲に刺したあの針がようやく体から抜けた。絶食もこれでおしまいだ。水も飲める。まだ首に管が通っているものの、点滴が外れて、オレンジ色の朝焼けを見て、だいぶ気持ちが軽くなった。多少残っている吐き気は、恐らく空腹によるもので、昨日からのものとは違う。冷蔵庫に入れてあるプリンをどのタイミングで食べようかと、昨日からずっと考えている。

手術で顔が腫れている。それでも、今のところ口角を上げれば、一応左右ともに上がる。ただ、右側の感覚が鈍い。鏡の前で表情をつくると、やっぱり右側が思うように動いていない。そして、右耳の感覚もない。目立つような顔面麻痺は免れたようだが、ちょっと心配が残る。「術後、口が片方下がってしまう人もいるから、順調ですね」と聞いても、あまり喜べない。この手術が10代、20代の若さだったら、とてもショックだったと思う。

血中酸素濃度を測り、血圧、体温を計り、採血。体に針を刺すのは結構なストレスだ。そして、今日もまた「血管が見当たらない」と、看護師さんは部屋を出ていってしまった。今日は何回針を刺されるのだろう。別の看護師さんがやってきて、一発で採血してくれた。絶食中の採血はしんどい。

8時過ぎに朝食。お粥というよりでんぷんのりだ。口は開けにくいが、手術した右側でも噛める。顔がうまく動かないながらも、手術翌日から固形物が食べられてひと安心だった。食事中、看護師さんがやってきて「傷口を見せてくださいね」と首から伸びた管を確認していった。食事中はやめてほしい。続いて男性医師が2人と女性2人がやってきた。だから、なぜみんな食事中にやってくるのか。首に刺した管は木曜日に外すらしい。明後日までずっとこの痛みが続くのかと思うと憂鬱だ。

お粥を食べたら少し元気が出た。吐き気も治まった。外はもったいないくらいの青空だった。食後に看護師さんが「ごはん食べられましたね」と言うので、素直に「でんぷんのりみたいでした」と答えた。普通のごはんに戻せると聞いて、夜からお粥を普通のごはんに変更してもらうことにした。

今日は3食ともお粥だと書かれていたのに、お昼は焼きそばが出てきた。術後の焼きそばはきつい。入院時に、献立をAとB選べるようになっていて、この日のお昼は術後だからと、油っこい焼きそばを避けて、ハンバーグを選択していたはずだった。なのに、焼きそばが出た。それ以前に、お粥ではなかったのか。仕方なく出てきた焼きそばを食べて、一応看護師さんに「ハンバーグを選択していたはずなんですけど」と伝えると、「栄養部に伝えておきます」と部屋を出て行った。私は悪くない、栄養部が間違ったんでしょという態度に思うところはあったが、術後なるべく穏やかに過ごしたい。

介護用体拭きシートで体を拭く。あまりスッキリ感がないので、濡れタオルの方がいいような気もする。絶食が終わったので、いつものように紅茶を入れる。少しずつ、日常に戻していく。お茶を飲むときは、あまり首を反らせると、縫ったところが突っ張って痛む。

入院後初めてシーツ交換があった。点滴が漏れてベタベタになった床も拭いてもらえたが、やっぱりベタベタする。首から伸びた管から、排液がだいぶ溜まっている。パジャマに安全ピンで止めてある袋から、排液を取り出してもらった。紙コップの半分もあった。これが紙コップ一杯分だと多すぎるし、半分以下だと少ないそうで、これくらいがベストらしい。

お昼ごはんのあとでウトウトしていると、看護師さんが血圧を測りにきた。それで目が覚めて、コートを羽織り、隣の病棟にある庭園まで歩いた。外の空気をいっぱいに吸い込みながら、少しだけ歩いて、院内のコンビニに立ち寄って帰ってきた。気分が悪くなることもなく、足下がふらつくこともない。首から伸びた管をジロジロ見る人もいない。

夜ごはんはお粥から普通のご飯に変更されていた。なますでいつまでも右頬がジンジンしている。刺激の強いものは、もう少し時間がかかりそうだ。

濡れタオルで体を拭く。洗面台でそっと顔を洗ってみる。綿棒で耳掃除をすると、右耳から乾いた血が付いてきた。右耳の感覚がないが、耳の穴の感覚は生きていた。手術中は全身麻酔だったので血を見ることはなかったけど、綿棒を見て「あ、本当に切ったんだな」と実感が湧いた。

手術で切開したところはテープで覆ってあるので見えない。どんなふうに、どのくらいの長さを切られたのか、まだわからない。それよりも、管を通している首のところがずっと痛む。恐らく、切開した傷口の痛みもあるのだろうけど、それを忘れられるくらいに痛い。注射針を首に刺しているのかと思ったら、太い管をそのまま15cmも体に差し込んであるのだという。それを聞いて、余計に痛んだ。

今日は猫シッターさんが昼の早い時間に来てくれて、1時間くらい猫たちと遊んでくれた。ごはんもちゃんと食べているようだ。ただ、猫シッターさんが帰ったあと、いつまでもカーテンと窓の隙間に入って外を見ている。私の帰りを待っているのだろう。夜10時過ぎ、やっぱり外を見ている。この病気のことで一度も泣いたことがなかったが、帰りを待つその姿にボロボロと泣いてしまった。個室でよかった。

朝食よりも夜ごはんの方が断然口も開いて、食べやすくなった。いつも以上にごはんをゆっくり噛んで食べる。手術から24時間後にはもう普通に歩けている。明日1日、また少し回復に向かうだろうか。少しでも早く猫たちの元に帰らなければ。猫たち、もうちょっとの辛抱だ。ニャーニャーと部屋を行ったり来たりする猫たちが室内カメラに映っている。呼んでいる猫たちを、病室ではどうすることもできない。

このまま回復に向かうと思ったら、右耳あたりが全体的にビリビリしていて痛む。そういえば、今日はベッドをフラットにして寝てもいいのだろうか。よくわからない。傷口あたりがあまりに痛んで眠れず、深夜2時近くまで我慢していたが耐えられなくなり、痛み止めをもらった。薬を差し出す看護師さんが無表情で「(薬が欲しかったら)もっと早く言ってください」と言うので、この痛みを我慢した私が責められている気持ちになる。

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