車検まで1週間
2008年に日本上陸した新型FIAT500、あれから13年乗り続けてきた。車検は9/28なので、昨年同様ご近所で整備工場に勤務しているSさんにお願いしていた。Sさんはいつも代車でやってきて、それと引き換えにFIATちゃんを持ち帰り、車検してきてくれる。しかも格安なので、田舎ではとてもありがたい存在だ。
消えない警告灯
9月某日、警告灯のランプがいくつも点灯している。エンジンをかけると「fuel cut off unavailable」と表示され、助手席側のエアバッグ、シートベルト、走行注意表示灯まで点いている。この警告灯が消えないことには、車検も通らないかもしれない。不安がよぎるものの、この時はまだ「FIATちゃん、ご機嫌ななめ。そのうち消えるだろう」と思っていた。
FIAT500の助手席側ダッシュボードに亀裂が入っていて、これが年々ひどくなっているのも気になっていた。もしかしたら、警告灯はこのダッシュボードが関係しているのだろうか。
いつもお世話になっているディーラーに電話をかけると、エアバッグの警告灯は点いていても、ダッシュボードからいきなりエアバッグが飛び出すことはないという。この亀裂は多くのFIAT500に見られる症状なので問題ありませんって、ディーラーがそれを言う!だったら補償で修理してくれ!と言いたいところだけど、これもまた個性だと受け入れて乗っていた。
ディーラーが言うには、一度システムのアライメントを確認する必要があるので、ディーラーに来てくださいとのこと。ただ、わが家から一番近いディーラーは成田か水戸で、車を預けてしまったら田舎では帰ってくるのも困難だし、生活もできなくなる。それならば、ディーラーでなくても、コンピューター診断機を持ってるところはあるから、一度見てもらってくださいとのことだった。
助手席の座席下の配線など、接触不良なだけの場合もあるし、もしかしたらエアバッグのキャンセルという操作をすれば警告灯は消えるかもしれない。軽傷なのかもしれないし、もしかしたら重症の可能性もある。いずれにしても、電話では原因がわからない。
輸入車を扱っている整備工場を探して、コンピューター診断できるか聞いてみよう。BOSCHなどの診断機を持っている工場が身近にあればいいのだが。田舎にそんな工場あるだろうか。ちなみに、家の向かいにある日本車のディーラーに「診断機ありませんか、FIATなんですけど」と控え目に聞いてみたが、案の定ダメだった。ですよね。
9/21、ポルシェ屋さんに相談する
隣町にポルシェを扱う整備工場を見つけた。家から車で約1時間の距離だ。コンピューター診断機を持っているというので、一度見てもらうことにした。
のどかな畑の中にあるポルシェ屋さん、挨拶もそこそこに運転席に頭を突っ込んで診断機を接続し、しばらくして「ダメだね」と私に言った。ダメというのは、つまり警告灯は容易には消えないということだ。口数の少ないポルシェ屋さんは、なにがダメなのかは言ってはくれず、それがとてももやもやしていた。「遂に乗り換えか…。」と言うと、ポルシェ屋さんは同意するような表情を見せた。
まだまだ乗る気満々だったので、急に目の前に廃車の選択肢を突きつけられてショックだった。遂に手放す日が来たかと思ったら膝から崩れ落ちて、車の前にしゃがみこんでしまった。
帰りに道、なんとなく「海を見よう」と堤防沿いを走ったら、タイヤが脱輪した。保険屋に電話してる間に、釣り人がみんなでFIATちゃんを救出してくれて、自走して帰ってきた。これがFIATちゃんとの最後の思い出になるとは。
「警告灯、消せますよ」という神の声
車検まで時間がない。あと一週間で修理して乗り続けるか、それとも乗り換えの判断をするか。
昔、旧型のFIAT500に乗っていた友人が、この切羽詰まった状況を見ていろいろアドバイスをくれた。その中に、神栖の整備工場に相談してみたら?というのがあった。自宅から車で約30分だ。彼はこの整備工場をGoogleストリートビューで見つけたのだという。店頭付近にベンツやBMWなどの輸入車があれば、FIATも見てくれるはずだといって、情報を送ってくれた。ここなら修理できるんじゃないかと。
ポルシェ屋さんが言った「ダメだね」の理由がわからず、もやもやしていたので、最後の最後に神栖の整備工場に電話をかけてみた。ここでダメなら、諦めよう。
やっとつながった電話の向こうから
「警告灯、消せますよ」
「消してあげましょうか」
「今すぐでもいいですよ、ぜひいらしてください」
神の声!コンピューター診断もできるという。一縷の望みをかけて、日が暮れる前に整備工場へと走った。これまでFIATの相談は歓迎されたことがなかったので、こんなウェルカムな対応、初めてだった。
13年の思い出が駆け巡る
日が暮れる前に神栖のスリーワイズファクトリーさんに到着した。ポルシェ屋さん同様、ビニールハウスが並ぶのどかな畑の中にあった。そこには動かなくなったフォードのエコノラインがあり、その車体に赤いポストが固定されていた。周辺にはボロボロの車が無数にあって、不安がよぎる。FIATちゃんもこんなふうになってしまうのか。
友人がストリートビューで見たと言っていた通り、そこにはベンツやポルシェといった輸入車がたくさん並んでいた。そして、すぐにコンピューター診断機でFIATちゃんを見てくれた。オーナーさんは、以前FIAT500に2年乗っていたのだという。
飛び込みの相談に即座に応じてくれて、ポルシェ屋さんが「ダメだね」と言った原因をとことん探ってくれた。どうやら、ECU(エンジンコントロールユニット)という車のコンピューター部品が故障しているようで、この部品がちょっとお高い。さらに、部品交換後にディーラーでデータ書き換え作業というのが必要で、これまたお高い。警告灯はそう簡単に消せるものではなかった。重症だった。
この結果を受けて、修理して乗り続けるよりも、乗り換えを検討した方がいいのではないかという話しに至った。これでやっと納得してさよならできる。お別れはいきなりやってくる。
FIATちゃんの部品と工賃が高価なのはわかっていたが、念のため後日ディーラーに電話で見積もりを聞いたところ、部品15万、システムの書き換えなどの工賃が16〜17万だった。さらに翌週の車検代を考えたら、乗り換える以外の選択はなかった。
スリーワイズファクトリーのオーナーさんがボロボロのFIATちゃんを見て「13年よく走ったと思う」と労うように言った。そう、FIATちゃんは私が東京在住の頃に、今はなきFIAT杉並で買ったもので、あれから13年本当によく走った。故障は多かったが、ワンオーナーで乗り倒した。オーナーさんはFIATちゃんをじっと見て「ワンオーナー!」と笑った。
夜、車検の予約をキャンセルした。
9/23、二代目きいろい号とご対面
乗り換えを決めたら、新しい車探しをしなければならない。田舎では車がないと暮らせないので、9/28の車検がリミットだ。スリーワイズのオーナーさんは業者向けのオークションサイトを眺めながら「こんなのはどう?」「これなんかもいいかもしれない」とその場で次の車を探してくれた。
私が探していたのは、やっぱりFIAT500だった。この世の中には、便利で機能的な車がたくさんあるけれど、今一番乗りたい車はやっぱりFIAT500だった。私にとっては、ポンコツなところも含めて世界一の車だ。短い人生、妥協してつまらない車には乗りたくない。
本当はお客さんには見せちゃいけないんだけど、と前置きしつつ、オークションに出ている何台かのFIAT500を見せてくれた。私は「これだ!」というきいろいFIAT500に狙いを定めて「これにします、これください」とその場で決めた。さっきまで悲しみに暮れていたというのに決断は早かった。
車のオークションは翌々日だという。
「落札してきてください!」
「本当にこれでいいの?」
「これにします!がんばって買ってきてください!」
というやりとりを経て、オークション当日、「落札しました」と電話があった。オーナーさんは車がある埼玉まで車を取りに行き、夕方にはご対面という信じられない速さで次の車を手配してくれた。
水色FIATちゃんの隣りに、同じ形のきいろいのが並ぶ。「同じだ」と思わず笑ってしまった。
こうして2008年式 FIAT500 cha cha cha Azul(チャチャチャアズール)から2015年式 FIAT500 Gialla(ジャッラ)に乗り換えたのだった。私が免許を取って最初に乗ったFIAT PUNTよりも少し赤みのある黄色、二代目きいろい号だ。
「ちょっとその辺乗ってみる?」と言われて、畑の中をぐるっと走った。2015年から6年しか経っていないし、まだ走行4万キロだ。修理歴もない。とてもいい子だ。先代にはなかったSTRAT&STOPというアイドリングストップ機能が付いている。
スリーワイズファクトリーのオーナーさんは、名刺を差し出して「これからは24時間、ここに電話してくれたらすぐ対応しますから」と言ってくれた。さすがに24時間ではないにしても、こんなふうに言ってもらえたら、田舎でも安心して好きな車に乗り続けることができる。とてもありがたかった。
Googleストリートビューという変態的な方法で探し当てた友人にも感謝だ。店頭に輸入車があるから、ここならFIATも大丈夫だ!という見方をするの、すごくないですか。
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