わが家には電車のボックスシートのような座席がある。本物が手に入らなかったので、設計から製作したものだ。電車席をつくるために、いつもメジャーを持ち歩き、あらゆる電車で人目を盗んで寸法を測ったりした。座面の奥行き、背もたれの高さなど。あちこちの鉄道会社に電話をかけたりもした。関西の鉄道会社の方が親身になって話を聞いてくれて、笑いながら「まあ、がんばってください!」と言ってくれた。
赤いモケット生地のサンプルを取り、図面を書き、高円寺の椅子の製作所を探し出して、クッションと背もたれの部分をつくってもらった。工務店さんが、製作したクッションに合うように椅子の土台をつくってくれた。家具職人さんがボックスシート特有の肘掛けを丁寧に、丈夫に取り付けてくれた。ここまでやったのは、本物が手に入らなかったからである。
2017年6月某日、友人から連絡があった。池袋東武百貨店で鉄道フェスタを開催中で、私が欲しがっていた吊革も売っているという。私はちょうどその時、用事があって東京へ向かっていた。これは池袋に立ち寄らなくてはならない。もしかしたら、探し求めていた電車席があるかもしれない。
鉄道フェスタ、間に合った。そして、私が探し求めていた赤いモケット生地の電車席を見つけた!実際に使われていた椅子なので、タバコの焼き焦げみたいな跡がある。とてもいい!スプリングが効いていて、丸っこいフォルムが美しい。これだ。私が探し求めていた椅子だ。
電車椅子は二人掛けと一人掛けと一点ずつ販売していた。そして、想像以上に安かった。興奮気味にその重たい座席をレジに運んで、配送手続きをした。
私は遂に、本物の電車席を手に入れた。詳しいことはわからないが、東武鉄道本線、スカイツリーラインを走っていた6500系の座席だと聞いた。群馬県伊勢崎から押上スカイツリー前までを走っていたのかな。大事にしよう。
つづく。