電車椅子(2)念願の脚がついた!

2017年6月、遂に本物の電車椅子を手に入れた。しかし、この座面に脚がなければ椅子として使うことはできない。残念ながら、DIYの趣味はない。どうやったらこの座面に脚を接続することができるだろうか。知恵を絞って脚の図面を書いた。

近くのホームセンターに電車椅子を持って相談に行くことにした。このホームセンターには工房があり、ベテランのスタッフさんが木材のカットや、製作したアイテムの販売なども行っている。工房のおじさんは冷ややかな目で私を見た。木材をこんな感じで組み立てて、座面を付けることはできないだろうかと相談してみるものの、まったく聞く耳を持ってくれなかった。あまりに冷たい態度に、私にはDIYは無理なのだと悟り、電車椅子に自分で脚を付けるのをやめることにした。

工務店の現場監督さんに相談すると、そういうのはあの大工さんが得意だから話してみますと言ったきりだった。誰にも頼ることができず、自力で解決することもできず、電車椅子は何年も、何年も、眠ったままになっていた。

電車椅子の裏側には鉄の突起があって、これをどう木材の脚に固定するか、アイデアが浮かばない。

某日、お世話になっている酒蔵で手作りのプランターを届けにきた篠塚さんに会った。77歳のおじいちゃんだ。篠塚さんの作った竹のプランターは、とても立派で、よくできていた。その時に、ボソッと「電車の椅子に足をつけたい」と話したら、篠塚さんは「そんなの訳ねえよ!おれがやってやるよ!なーに、じじいの暇つぶしだ!」と、私の依頼を引き受けてくれた。

夢が叶う!

そして翌日。約束通り、篠塚さんはわが家に来てくれて電車の座面をいったん持ち帰った。去り際に、わが家の猫を見て「さみしい女は猫を飼うんだ」と捨て台詞を吐いていった。

翌々日。信じられない速さで「できたぞ」と電話があった。それで持ってきてくれたのが、この写真の椅子だった。篠塚さん、違うんだ。そうじゃないんだ。電車椅子の良さが消えてしまっているんだよ。「こういうのは、まず箱を作ってやって、そこに足をつけてやればいいんだ。なーに、こんなもの簡単だ!」と満面の笑みだった。言えない。得意気な篠塚さんに、この蒲鉾板みたいなのはなによ!って言えない。足はささやかな角材がよかった。椅子の座面より、箱が大きいので、威圧感がある。赤いモケットの丸っこいフォルムがかわいらいしいのに、それが半減してしまった。つらい。私の大事な電車椅子がこんなことになってしまって、つらい!

この一人がけの椅子はオットマンとして使いたかったが、木枠が邪魔だ。篠塚さんには、素人ながら私の書いた図面を渡していたが、「そんな素人の書いたのは役に立たねえよ!いらねえよ!」と受け取りを拒否した。それでも、参考までにと手渡していたが、まったく見てくれていなかったようだ。私はこの椅子に「15cmの脚を付けて、オットマンとして使いたい」と伝えたのだが、篠塚さんはオットマンを知らなかった。そして、「15ってえのは語呂が悪いな!」と繰り返し、電車椅子をぐるっと囲むように木枠を付けてしまったのだった。

いつか電車椅子に足がつくのを夢見ていた。まさかこんな形で実現するとは。篠塚さんは「またいつでも言ってくれ。こんなこと訳ねえよ。いつでもやってやるよ」と笑顔で帰っていった。ありがとう、篠塚さん。私はちょっと泣きたい。誤解のないように書いておく。私は篠塚さんにとても感謝している。出会った翌日に家を訪ねてきてくれて、その翌日にはもう脚が付いていたのだから。

このとき私は思った。自分で作れるようになりたい。ちなみに、猫たちはこの電車椅子を気に入っている。

つづく。

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