ソウルの山の中に「スプソク漢方ランド=森の中の韓方ランド」という昔ながらの健康ランド的な施設がある。「チムジルバン(찜질방)」とは、日本でいうところのスーパー銭湯みたいなものか。サウナは得意ではないが、ここのサウナはソウルで唯一の炭窯(スッカマ)で、昔ながらのこの施設がずっと気になっていた。汗蒸幕は体験したことがあるが、このスッカマは初。ガンガン薪を燃やした窯の中に靴下を履いて入っていくというので、靴下持参で行ってみた。
「スプソク漢方ランド」へ
NAVAER mapでルート検索して、東大門からバスを乗り継いで向かった。これがよくなかった。私がバスを下車したのは坂の下。そこから「森の中の韓方ランド」までひたすら坂道を歩いた。滝のような汗をかき足が棒状態で、ゆっくり一歩一歩坂を登る。すぐに汗を流すとはいえ、「7024」バスに乗るルートに変更すればよかった。
「7024」のバスは、「スプソク韓方ランド」の入り口まで行ってくれる。坂道を歩いていると、バスがぐんぐん追い越して行く。ああ、あのバスに乗りたかった!このバスに乗ればソウル駅、新村駅から直行してくれるので、東大門から一度ソウル駅に向かうのが正解だったかも。
この坂道がきつかった。

この距離でも「7024」バスに乗るべし!

「スプソク漢方ランド」へはこの「7024」バスが便利。

入り口のおばちゃんに説明を受ける
連日2万歩以上歩いていたので、足が限界で震える。到着すると、屋外に薔薇の壁紙のドアがあった。いいわあ。なんかいいわあ、この感じ。

遂にやってきた。入り口にパプリカが売っていた。袋いっぱいに入って5000₩(約530円)!安い!


受付のおばちゃんに16,000₩(約1,700円)払うと、着替えとタオル2枚を手渡される。日本語は一切通じないが、おばちゃんは親切に「まずは下の下に行きなさい。着替えてお風呂入って。アカスリもそこでやってもらって。スッカマはその上よ。まずは下の下に行くのよ!」と身振り手振りで教えてくれた。やさしい。
フロア案内にかろうじて日本語があって、とても助かった。これだけが頼り。なるほど、入り口は2階だったのか。

下駄箱に鍵をかけ、まずは女湯へ
おばちゃんに案内されたとおり、下の下のフロアへ。下駄箱の鍵に書かれた番号のロッカーを探す。ロッカーの鍵が開かなくてしばし困惑していたら、鍵が2個付いていることに気付いた。1つは下駄箱、もう1つはロッカーの鍵だ。


漂う昭和感。好きだ。

韓国のお風呂は勝手がわからないが、周囲を観察するととりあえずみんな全裸で風呂に向かっている。私もそれに習って風呂に行く。
洗い場にはシャワーがずらりと並んでいて、10個ある照明のうち4個は切れていた。シャワーごとに固形石けんが一個ずつ置かれていた。誰かが使ったふやけた固形石けんって、ちょっと抵抗があったが、郷に入れば郷に従う。大きなお風呂に手を入れると、水風呂だった。ジャグジー風呂もあるし、ぬるめのお風呂もある。
やっとお風呂に入って一息ついた。ブダペストでも大衆浴場に入った。フィンランドではサウナに入った。韓国のお風呂は初。どの国もそれぞれルールは違えど、汗を流して疲れを取るというのは変わらない。
アカスリでまな板の上の鯉になる
汗を流したところで、いったん体を拭き、ロッカーから財布を持ってきた。全裸に財布っておかしいけど、このフロアはみんなが裸なので気にしない。
売店のおばちゃんに「アカスリやりたい」と言うと、「おお!任せろ!」という具合で、すぐに奥で休んでいたシースルーの赤い下着姿のおばちゃん登場。とにかく明るい安村みたいに下は履いていないように見える。が、履いている。30,000₩払って久しぶりのアカスリだ。
おばちゃんが「財布をロッカーに置いて、風呂に行け」というので、それに従う。お風呂の奥にはショッキングピンクのベッドが3つほど並んでいて、どうやらここでやるらしい。ボディタオルと固形石けんを渡され「とりあえず体を洗って風呂に入れ」という。ええと、さっきもう体洗ったし、お風呂も入ったし、そのボディタオルみんなで使い回しなの?えええ、ちょっとやだな。抵抗あるなと思ったけど、おばちゃんに従ってまた体を洗った。「さっき体洗ったよ」って韓国語で言えればよかったんだけど。
お風呂に入っていると、おばちゃんが「準備できたから、おいで」と声をかけにきてくれた。全裸でうつ伏せ、すぐゴリゴリと擦り始めた。いつもやわらかいボディタオルを使っているので、かなり痛い。文字通り、全身一皮剥けるような感じだ。うつ伏せから横になり、あおむけ、うつ伏せ、横になる、というベテランのアカスリおばちゃんのルーティーンに従う。
私はまな板の鯉だ。じっと目を閉じてされるがまま。時々、アカスリしてくれているおばちゃんのやわらかなサムギョプサル(腹の三枚肉)に手が触れる。おばちゃん、手際よく休むことなく擦ってくれる。シモの話で恐縮だが、おまたの際の際まで擦る。お尻の穴ギリのギリギリまで擦る。ザバーン!と垢を流してもなお、台の上には大きな消しごむのカスみたいなのが散らばっていた。うわあ、汚い!感動!
終わってからおばちゃんに「カムサハムニダ!」と言ったけど、心の中では「よっ!アカスリ名人!」と拍手喝采だった。10年ぶりか、20年ぶりか、すっかり忘れてしまったけど、今回久しぶりのアカスリを楽しみにしていたのだった。
いよいよ炭窯(スッカマ)へ
アカスリ後もしばしお風呂に入っていたが、ここのメインはなんといっても炭窯(スッカマ)だ。炭火で熱々に熱された窯に人間が入ってもいいものかと思ったりする。最高温のスッカマに鶏肉を入れたら、いい焼き鳥ができそうだ。とにかく、スッカマというのはソウルでここだけだと聞いた。
「炭窯の行き方」と日本語で書かれた看板があるのでわかりやすい。ドアを開けた瞬間、炭のにおいがする。


大量のサンダルがあった。これを履いてスロープを降りる。

猫いる!

スッカマの番人のような猫

スッカマは左から「弱い」「普通」「熱い」「強烈」の順で並んでいる。
まずは一番左の「最弱」から入ってみる。ここは大丈夫。呼吸もできるし、あおむけに寝転んでしばらく気持ちよく汗をかく。靴下はやはり必須だ。

左から2番目の「普通の窯」は一番人気で、入り口にサンダルが散乱している。中は最弱とあまり変わらない温度だった。
左から3番目の窯は入り口に注意書きがあれこれ書いてあるが、ハングルなのでわからない。ただ、恐らくゴムサンダルではなく、竹のサンダルに履き替えてくださいとか、スマホを持って入らないようにとか、そういうことだと思う。とりあえず入ってみると、座ったり寝転んだりは無理。靴下のままで行ったら、フライパンの上を歩いているみたいに飛び跳ねてすぐ出てしまった。これはやばい。
さて、問題は一番右、最強の窯だ。入り口のカーテンをめくっただけで、強烈な熱気が吹き出してきた。ああ、これは命の危機を感じる。あぶない。靴下に竹のサンダルを履いて入ると、やはり座ったり寝転んだりは無理だった。10回大きく呼吸をして終了。
私はスッカマ4レベルを制覇した。
休憩しながらスッカマを楽しむ
釜が並ぶエリアでは、みんな各々飲み物を飲んだり、寝転んだり、炭でジャガイモやたまご、餅など焼いて食べている。みんなぐだぐだになりながらも、時々窯に入っては出てくるの繰り返し。アルミホイルに包まれた熱々のじゃがいもに塩をかけて食べていて、「韓国ドラマで見たやつ〜!」とテンションが上がった。

この窯の万人みたいな猫がずっと寝ていて、とてもおとなしいので窯に入っては撫で、また窯に入って撫でるを繰り返していた。通りすがりの人がみんな撫でていく。声を掛けるとちゃんとわかるみたいだった。

水分補給にシッケを飲むべし
一度財布を取りに戻り、売店でシッケを買った。3,500ウォンだった。おばちゃんが鍋から大きなお玉でいっぱいカップに入れてくれた。それを飲みながらだらだらする。シッケは麦芽とごはんを発酵させて作られる飲み物で、甘酒みたいな感じ。甘くておいしい。粒々もおいしい。


そして再度スッカマへ。窯は21時までなので、思う存分入った。お風呂は22時までやっているので、仕上げにまたお風呂。最後は持参したアメニティを使う。
広間でぐうたらして体がスッキリした。ドライヤーは100₩硬貨を2枚入れると2〜3分使える。すぐ終わっちゃう。
「7024」バスで帰る
「7024」バスは既にそこにいた。まだエンジンがかかっていないようで、運転手さんに声をかけると「どこまで行くのか」と。ソウル駅だというと「5分待て」というので、しばし外のベンチで夜風に吹かれていた。風呂上がりだけど、じっとりと汗が吹き出す。顔の糸脱毛もやりたかったな。

帰国後もなんとなく炭のにおいがする。